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ミクロな視点で「らしさ」を追求する「無印良品の文房具」

昨日はお仕事で熊本だったのですが、打ち合わせ終わりに下通のCOCOSAにある「Cafe & Meal MUJI」でお昼をとることにしました。フロアの一角に設けられたカフェスペースは自然光たっぷりで気持ちよく、ゆったりとした雰囲気。季節ごとにかわる食材が楽しめる「一汁一菜」の定食をオーダーしました。

注文を済ませると、座っている大きなカウンター席の真ん中に一冊の本が置かれているのに気づきました。普段はなんとなくパラパラめくって提供を待つ間のひま潰しにするくらいなんだけれど、昨日はちょっと違いました。前に手に取った人が置き違えたのか、なぜか裏表紙側が向けられていて、なので目に入ったのは表紙ではなく裏表紙側のオビにあったのがこのひとこと。

「はじめて買った無印良品は文房具でした」

飾り気のないフレーズ。だけど「たしかに、そうかも」となんだか懐かしくなって、どんな本かと気になり開いてみることに。

「無印良品の文房具」というこれ以上ないくらいどストレートなタイトルの本。1,500円+税。初版は2018年2月末。言わずもがな無印のステーショナリーに関する内容なのだろうと当たり前の事を思いながら、はじめのページへ。

無印良品の文房具。ロゴも装飾もなく一切シンプル、主張しすぎない色使い。必要なものだけを残した機能性の高さ、それでいて驚くひどの低価格。個性がないように見えるのに、“っぽい”と思わせるデザイン。ふだん使いしやすく、着飾らない感じがなんかいい。

「無印良品の文房具。」のP2より抜粋

この数行で、なぜ無印の商品がたくさんの人に使われているのか、すべてに納得がいってすっと胸に入ってきました。これまでことばにしたことはなかったけど、この本には「無印良品らしい」価値観が、文房具というミクロなフィールドの中でどのように追求されているのかを知ることができるんだろうな、と期待しつつ同じフロアのMUJI BOOKSで即購入しお持ち帰りした、というのが今日のお話のはじまりです。

本の構成としては、ただ単に人気商品を紹介しているだけというわけではなく、商品ごとの開発背景や裏話に加えて、いろんな職業の人たちのノートの使い方など、直接宣伝になるようなものというよりは、細かすぎて伝わらないかもしれないけど、この子たちにはこんな個性があるんだよ〜と語りかけてくれる感じ。ことばのタッチは柔らかいんだけど「無印良品の製品づくりとブランドづくり」についての細かくも尖ったこだわりをたくさん感じました。手にしたばかりの新鮮な気持ちのまま、その中から3つまとめてみようと思います。

「しない」選択で定番ロングセラーを進化させる。

はじめて買った無印良品は覚えていないけれど、学生時代これはたくさん持ってた。書き味と色味、デザインが好きでついつい集めてた記憶が。周りにも同じような人がいっぱいいたと思います。そんなゲルインキボールペン、実は1998年発売の20年選手だそうで!その改良の歴史が載っていました。

見た目や素材、カラーバリエーション、ペン先の細さなど、その当時のニーズに合わせて変化を続けてきたボールペン。その中で左ページにある「試作品」の項目。ボデイの色ひとつとっても試行錯誤があったことが分かります。人気商品をリニューアルするというときって、ユーザーの要望もたくさんあると思うんです。そんなときに無印が行なったのは、「しないことを選ぶ」こと。例えば、よりカラフルなボディにすれば、ポップで可愛く目を引く。今まで手に取ったことのない人も使ってくれるかもしれない。けれど「カラフルであること」は本当に無印らしいのか?と検討を重ね、その選択をしなかった。結果的にもともとの良さをそのままに、必要な要素のみを磨くことでアップデートに成功。リニューアル後、今のデザインは8年間変わらず販売されていることがわかります。

「らしい配色」で商品に深みを。

この不思議な形の付箋紙。もともとはラベルシールとして売られていたマイナー商品をリニューアル、再販する形でリリースされたそう。その際、粘着度を弱め付箋紙として「貼って剥がせる」という機能を追加することで、付箋としても、インデックスとしても使えるいいとこ取り商品になったそうです。

この時検討されたのが紙の色。付箋ってカラフルなものが多い中で、見たことのない暖色同系色の色合いです。ここでも無印らしい色使いとはなんだろう?と、蛍光色や黄色、淡い色などの検討を重ねていることが書かれています。

商品の主な用途は目印としての使い方。そのためには「無印らしく目立つ」ことが必要で、そのために黄色を採用し、それを軸としたオリジナルの植林木の紙になったそう。こうしてカラーで飽きさせず、必要最低限のアクセントを持たせた付箋紙が販売された、というわけです。

「整える」ことを文房具の新しい価値に。

文房具って「ペン」や「はさみ」など用途が決まったものには当たり前に必要な「書く」「切る」といった機能があって、その中で「描きやすさ」や「切れ味」で差別化したもの、いろいろな商品がありますよね。無印の文房具には、そうした当たり前の範囲だけでなく、ちょっと違う角度で商品価値を高めた分野があります。それが小物収納用品です。

主なものに、ポリプロプレンのファイルボックスや整理トレー、机上用のコンパクトな引き出しなどいろんな商品がありますが、どれも個々に使いやすいだけでなく、シリーズとして複数を並べたり重ねたりしたときに、環境が「整う」ことに重きを置いて設計されています。

写真のABS樹脂シリーズは、散らかりやすい書類や小物をスペースの無駄なく収納できる商品。A4の書類サイズを基準に、その半分、そのまた半分の順に小さくなるモジュールで、スタッキングしたり組み合わせでカスタムしたりしても、見た目の印象が保たれるよう工夫されています。使うだけで勝手にすっきり「整えてくれる」ので、シリーズで揃えて使いつつ、用途が変われば買い足したり、組み合わせを変えるだけでまた使える、そんな文房具収納の新しい価値を付与した商品になっています。

「無印」らしさ=「ブランド」らしさ

この一冊の中に、無印の商品に込められた「らしさ」について垣間見ることができました。ここに書かれているのは、商品への飽くなきこだわりだけではなく、商品づくりを介したブランドづくりの過程の一コマです。人が何を選び、どう思うのか、そして無印は何を選びどういう形で届けるのか。無印に限らず、ブランド力をあげるには?どうやったらファンがつく?など、ブランディングを課題とするときに参考になるような内容ばかりの良書でした。買ったばかりなのでもう少し読み込んでみようと思います。

おまけ:本の編集について気づいたこと

商品のこととは別に、この本の編集について気に入ったところをひとつ。商品のポイントを伝えるときに、使用状況というか、手で持ったシーンがいろんなところに出てくるんですが、この時商品そのものは写真なんだけど、それを使う「手」だけイラストに変えられているんです。どちらも写真、どちらもイラストにするよりも、手に意識が行き過ぎることなく、商品の輪郭がはっきりするし、不要な生々しさも取り除かれ情報としてよりフラットな状態が保たれています。イラストのタッチもちょうどよく、今っぽさを意識した鮮度。

こうした編集上のこだわりがこの本には他にもたくさんあるように思いました。お仕事ではもちろんですが、このブログの見せ方や書き方の幅を広げ、より伝わりやすくするためにも参考にしてみよう、と思いました。では、また。

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