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コマ割り、視線誘導、コントラストで魅せる試合描写。私的「ハイキュー‼︎観」_第二回

さてさて、先日に引き続き、表題の連載・第二回をお送りしていこうと思います。

前回アップした日の深夜に、ついにアニメシリーズ第四期「ハイキュー!! TO THE TOP」の第一話が放送になりました〜!第三期の放送が2016年秋だったので、およそ3年ぶりの新シーリズで、心のなかでは「もう待ちに待ったよ!」という具合のお祭り騒ぎだったので、その気持ちを抱いたままこの連載を書ききりたいと意気込んでいます(ちょっと時間が経ちつつありますが…)。

第二回の今日は、原作漫画ハイキューの「コマ割りや画づくり」についてです。

ハイキューのストーリーは主に、「試合」「練習」「日常」の3つで構成されています。おそらく大部分は「試合」の描写。試合中に人間的な成長の部分やそのキャラクターらしいアクセントが加わり物語が進んでいきます。
バレーボールって、学校の体育の授業でやったレベル以上の知識は中々持ち合わせていないもの。そんな読者さんに対して、いかに試合中の描写を魅力的に、かつ想像できるように演出するか、そんなところがとても巧みなのがハイキューです。今回はどんな試合描写があるか、ちょこっとだけご紹介しながらお話していこうと思います。

1)限られた面で大胆に動きをつける「コマ割り」

漫画の原稿は横長の長方形。それを自由に変更することは物理的に不可能です。そんな限られた枠組みの中で、動きのあるスポーツ漫画のシーンをかっこよく表現するために、ハイキューでは「コマ割り」に大胆かつ繊細な演出がされています。たとえばこちら。

主人公の日向が、試合中にこれまでの自身のジャンプよりさらに跳躍するスパイクで、一段階成長するシーン。床を蹴るような音がするような迫力のあるジャンプシーンを、コマ割りのラインと合わせたジャンプ音「ドン」のドの字で表現。
効果音をコマ割りとミックスさせることで、無駄なものを省き誌面はすっきり、より描写を引き立たせるようなシーンになっています。
腕をふる動きも直線的なコマ割りの中で弧を描くように入れられていて、固くなりそうなページにリアリティを持たせています。
そして体育館の天井までも煽るようなパースの効いたカメラワーク。このあとの跳躍とその劇的な瞬間を予感させる角度のある構図です。こんなに計算しつくされた見開きが存在するのか、汗臭いスポーツ漫画なのにこんなに洗練されているのかと、初見でとても打ちのめされた記憶があります。

こちらは立ちはだかる3人の敵ブロッカーを掻い潜るため、ネットに近いアタックライン付近へ難しいインナースパイクを決めるシーン。通常のクロスやストレートうちに比べ、ネットに対して角度なく平行に突き刺さるようなスパイクのキレと臨場感、コートに立つ選手たちの視線を横切りコート奥へ伸びて落ちる描写を、見開きの横長いコマを使って描いています。
真横でのカットではなく、左上がりのカットにすることで、その瞬間のいろんな選手の表情を入れつつ、一瞬の描写を多角的に見せつつ、そのシーンを盛り上げるような見せ方になっています。

2)静止画の中に動きの表現を入れる視線誘導

アニメと違って漫画はすべて「静止画」でできています。誌面でキャラクターがARみたいに動いてくれたら面白いなあなんて思ったりしますが、それは置いといて、漫画の中でキャラクターは常に止まっているわけで。そんな中でどうやってバレーの一瞬の動きをとても巧く伝えているシーンがこちら。

日向(画面右)がスパイクのモーションに入り、相手コートのどこへ打つか、跳躍の一瞬で判断するシーン。立ちはだかるブロックの手先、その手先の到達点からスパイクの照準を合わせつつ、その先に見えるレシーバーの目線までを追う。言葉では追いつかない思考を、コマの流れと、目の中の手やブロックの手先へのポイント描写を追加し誘導することで、わかりやすく伝えています。

ここでは、上のコマで、2番の菅原と9番の影山というふたりのセッターがスイッチ=ポジションを一瞬入れ替わり攻撃を仕掛けるシーン。菅原は向かって左に、影山は右に同時に動いていることを、床とシューズの摩擦音「キュッ」になんと方向を表す矢印をくっつけた「描き文字」で表現しています。こうしたグラフィック的な視覚要素がハイキューには多く、楽しい見せ方で場の雰囲気を盛り上げるような描き方は、読んでいてとてもテンションが上ります。

3)明暗その他でシーンにリズムをつける「コントラスト」

試合描写が続くと、常に動く選手と試合の流れに慣れてしまい、大事なシーンの動きに気づけなくなることもあります。「えっ、ここ決めてたの!?戻らなきゃ」みたいな。こうした読み落としがないよう、シーンにリズムをつけることでストーリーに緩急をつけて各描写を引き立たせています。そんなシーンがこちら。

王者と呼ばれる強豪校の大エース・牛島のスパイクと対峙するシーン。一コマ目のジャンプまでは白背景で、これまでの試合の流れとつながったコマになっていますが、二コマ目は背景がグレーに切り替わり、これから放たれるであろうスパイクのコースを白で反転させ目立たせています。
そして左のコマでそのコースを塞ぐブロッカーの腕の動きを、体の動きが目立つよう黒い背景で余計なものを排除し描写。息を呑むような一瞬の引き込みを白から黒へのコントラストで表現しています。急な画面の色の変化で緊張感も高まって、シーンそのものの流れから試合の動きまでも切り替えて、次のシーンへとつなげています。

こちらは、9番のセッター影山が、日向にトスを上げるシーン。これまでのトスとは違う、より精度の高いトスが初めて成功し、それを日向が捉えるところなのですが、このボールの動きを見開きいっぱい、そして少しのモノローグで描いています。一コマ目ではスパイカーの手元まで一瞬で供給されるトスの動きを空気を裂くような集中線とエフェクトで描き、その速いボールが日向の手元で回転を止め、ボールの周りの空気すらも止まって見える描写へ。そんな動きのコントラストすらも描ききる姿勢に脱帽です。

こんな感じで、ハイキューの演出について語ってまいりましたが、他にもたくさんの演出ポイントが散りばめられています。特に回を重ねるごと、巻数が増えるごとにどんどん洗練されて、無駄なコマがなくなり、よりわかりやすく、より魅力的なシーンがたくさんになっていきます。週刊連載で日々が締切とクオリティとの戦いだと思うのですが、その限られた中でちょっとでも画づくりに力を注ぐ古舘先生のストイックさに感動します。

余談ですが、この記事を書くにあたり好きな描写のあるシーンを見返していたのですが、その途中で涙がちょちょぎれ先に進まなくなり、シーン選択が難航。アップに時間がかかりました。読み返すほど描写に新しい発見があり、感動も深まる。ストーリーだけでなく漫画的演出にも注目して、ぜひページをめくってみてくださいね。次回、最終回の予定です。では、また。

2 Comments

  • S子

    こんにちは。
    突然のコメントすみません。白熊アイコンのS子です。

    今回も大変面白く拝読しました!
    ハイキュー!、原作は未読なのですが、こんなにも洗練された画面なのかよ……!と度肝抜かれた気分です。

    トップクラスで売れている漫画は、ストーリーはさることながら画面が相当ハイセンスだよなと感じることが多々あるのですが、ハイキュー!もまさにそれですね。
    コマ割りのカメラワーク素晴らしい!
    印象的な動きを見せてくれる漫画の多くはカメラワークが斬新ですが、ハイキュー!、すごくないですか……!
    縦横無尽!
    そのせいなのか三次元的奥行きを感じました。
    斬新な描き文字も印象的でした。こんなの見たことない……
    試合のシーンも、動き、表情、描き文字のバランスが秀逸というか、計算し尽くされた画面だなと。
    ユウコさんの記事を拝読して、ここまで練って描かれているのか……!と驚嘆しました。ネームすごそうですね……。
    トーンの使い方も素晴らしかったです。表現が限定的になるはずの白黒の世界を、これほど鮮やかに魅せてくれるとは。
    そして何より、こ、これを週刊でやっちゃうのか……!という驚愕がすごいです。
    週刊少年ジャンプの作家さん方は、悪魔と契約でもしとるんかってくらい規格外の能力をお持ちの方が多いですが笑、古舘先生もご多分に漏れずですね……
    いやもちろん相当の努力と研鑽を重ねてこられた結果だとは思いますが

    いやはやすごい。かなり読んでみたくなりました。
    既刊41という数字に目が飛び出そうになりましたが笑
    さすが週刊……

    長々失礼致しました。素敵な記事を読ませてくださってありがとうございました!

    • gg__yuko

      S子さん!いつもありがとうございます!
      そのようなコメントをいただけて光栄です。書いてよかった。

      青春バレー漫画と侮るなかれ、おっしゃるとおり、大変洗練されていて。
      その過程を思うともう、ストーリー進行とは別に涙が出るレベルです。
      先生の頭の中にはすべてのシーンがありありと浮かび上がっていて
      それを映画のように撮影していく作業なのではないかと思ってしまうほど
      ボールを落とさず、相手より先に25点とる、たったこれだけの描写がこんなにも煌めくんですね。

      先生には漫画の技術もさることながら、バレーボールへの熱意と、キャラクターへの愛情の3つが
      いい塩梅で昇華されているのでケチをつけたり物足りなかったりすることが一切なく
      納得してページをめくれるのもすごいところです。

      41巻ありますが、まるで自分が父兄になった気分で感情移入して読めるので、たぶんあっという間です。笑
      レンタルで一気借りでも大丈夫なので、ぜひぜひお手にしていただきたいです。
      でもとりあえず、NetflixでアニメからでもOKかと。実はわたしはそのクチなので。
      アニメもよく原作の世界観を尊重しつつ、モーションでも盛り上げてくれます。
      声優を先に特定させておくこともできるので、漫画読む時にCVを心のなかで召喚できるのもポイント高いですよね。

      記事は次回で最後です。書き切りますのでよろしくおねがいします!

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